電通銀座ビル

所在地 東京都中央区銀座
竣工 1934年(昭和9年)
設計 横河工務所





銀座の中心部からちょっと外れたところに
戦前の美しいオフィスビルが立っています。
「帝都東京」の香りを残すモダンなビルです。





電通銀座ビル

大手広告代理店の「電通」が
戦前に本社として建設したビルです。
その後1967年に本社は移転、さらに2002年には再び移転し
現在は電通のサテライトビルとして使われています。
ちなみにこの1934年の本社の美しさもさることながら
1967年の本社は設計があの丹下健三
さらに2002年の本社はジャン・ヌーヴェルという逸品揃い。
電通はいつの時代もいい建物建てますね〜





1934年に完成したこの本社は電通本社としては2代目のビル。
太平洋戦争で大きな被害を受けた銀座の中にあって
当時の姿を非常によく残しているヴィンテージ・ビルです。

このビルができた1930年代の日本は
ちょうど戦前の建築文化の頂点を迎えていました。
1937年には戦前の建物の建設数がピークを迎えます。
意匠の面でも、それまでの古典的な様式主義に加え
新たに入ってきた「モダン・ムーヴメント」が大きく広がっていきます。
1930年代は、様式主義とモダニズムのせめぎ合いの時代。
日本近代建築史の中でも、最も華やかでダイナミックな時代の一つです。





渡辺仁や岡田信一郎といった様式主義の巨匠と
前川國男や堀口捨己、山田守といったモダニストが同時平行的に活躍した時代・・・
その中でチェコから日本にやってきたアントニン・レーモンドは
一人世界の東の果てからル・コルビュジエ相手に挑戦を挑み・・・
もう想像するだけでドキドキしてきませんか? しませんね、すいません。
ってか誰が誰だかわかりませんね・・・
でもこの時代、日本の建築界は大きな変化の時代を迎えていたのです。





そんな時代に建てられたこのビルですが
全体のスタイルは機能主義を基本としたもので
当時としてはかなり先進的なデザインの建築のひとつです。
機能主義的なデザインが例えばコレ。窓のデザインです。
真ん中に大きな固定窓があって、その両脇に小さな可動窓がつくタイプ
「シカゴ窓」と呼ばれるタイプです。

名前の由来はアメリカのモダン・ムーヴメントのひとつ「シカゴ派」
文字通りアメリカのシカゴを中心に19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍し
機能主義的なデザインのオフィスビルを作った一派です。
"Form Follows Function."「形態は機能に従う」という名言は
シカゴ派の代表的建築家、ルイス・サリヴァンの言葉です。
彼らが好んで用いたのがこのシカゴ窓。
機能性を前面に押し出したデザインで、シカゴ派を象徴するデザインです。
装飾のない真っ平らな壁面には、ひたすら同じ形のシカゴ窓が規則的に並んでいます。
「シカゴ派の沈黙」とでも言うべきこのデザイン、モダンです・・・



   

一方こちらは交差点に面した部分。
ぐり〜んと滑らかなカーブを描いています。
さらに各所の細かいデザインも、滑らかな曲線が多用されています。
この流れるような造形、「流線形」のデザインは
これまたアメリカのモダン・ムーヴメントの一派
「ストリームライン・モダン」の影響です。

1930年代にアメリカで流行したこの流線形のデザインは
ドイツのツェッペリン飛行船の流線形に由来するとされています。
ストリームライン・モダンは建築以上に工業デザインの分野で非常に流行し
流線形派を代表する工業デザイナーのレイモンド・ローウィの言葉
「口紅から機関車まで」で知られるように、ありとあらゆる工業製品が
流線形のデザインで埋め尽くされました。
このビルには当時の最新のデザイン感覚も取り入れられています。



   

そんなモダンなビルの中にあって、ひときわ異様なのが
正面玄関上にあるこの怪しげな和風のレリーフ。
左の見事な二重アゴの女性が「吉祥天」で
右の怖い顔の男性が「広目天」なんだそうです。
何でも広目天は広告に縁がある神様で
吉祥天は商売繁盛の神様なんだそうです。
広告代理店だけにそれらしい神様を祀っているわけです。
それにしても、この二柱の「浮いてる感」は尋常ではありません・・・





それから、このビルで非常に美しいのが
この一階にあるガラスブロックの大きな窓です。
小さなガラスブロックを積み上げたもので、採光とプライバシー確保を兼ねています。
ガラスが戦前のものかどうかはわかりませんが、透明感があって非常に美しいです。
板ガラスにはない独特の柔らかさに引き込まれるものがあります。



   

ガラスブロックの拡大写真です。
ブロックひとつは15×15cmくらいの大きさです。
よく見るととても凝った作りになっています。
ちなみに窓の足元にもこんなところにガラスブロックが!!
これホントに地面に埋め込まれたような感じになっていますが
これは地下階の採光用のガラスブロックです。
1930年代の電力事情を考えると、電球をつけるよりも
こういった明かり取りをつける方が節電できる、という発想からでしょう。
このビルの他にも1930年代のオフィスビルにはこれが付いてるものが結構あります。
そしてなぜか、和泉の第二校舎にも付いてます・・・
窓面のガラスブロックよりは丈夫にできてるはずですが
貴重な文化財ですし、危ないので上に乗るのはやめましょう。



   

そしてもうひとつの美しさのポイントが、タイル貼りの壁面です。
この爬虫類の肌のようなヌメーッとした質感の壁面には
一辺3cm程の細かなタイルがびっしりと貼られています。
この時代のビルは多くが茶色のタイル貼りなのですが
電通ビルは例外的に独特の深緑色のタイルが貼られています。
しかもこのタイル、よく見ると単色ではなく
微妙に色合いの違うタイルがランダムに貼られています。
これはホントに綺麗です。モネの筆触分割のような透明感・・・





これといった装飾もなく、シンプルでありながら
知的な美しさを放つ存在・・・いい建築ですよ、これは。
電通さんにはこれからもずっと大事に使ってもらいたいところです。

モダン東京の美しい文化遺産
電通銀座ビルでした。



2009.1.21

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