新宿御苑ハイム

所在地 東京都新宿区新宿4丁目
竣工 1979年(昭和54年)
設計 吉本建設設計事務所





前々から実に気になっていたのです・・・
新宿駅の真ん前にあるこいつの存在が・・・

新宿駅の新南口から東側に歩いて行くと
ビルの間からこんな異様なやつが見えてきます。
ここだけ・・・明らかにおかしいですよね・・・雰囲気が・・・





真ん前から見るとこんな感じ
かなりほっそりとしたビルです。
名前は新宿御苑ハイム
名前とベランダからわかるように、これマンションなんですね。
ネットが張られているのは鳩除けか、それとも老朽化からか・・・





この何だか不思議なデザイン・・・
なぜか時代錯誤的な表現主義のデザインです。

表現主義(Expressionism)は20世紀初頭、ドイツを中心に広がった
建築のモダン・ムーヴメントのひとつです。
「表現主義」という言葉だけ聞くと、何のことやらという感じですが
(「表現主義」って訳はあんまりよくない気がするなぁ・・・)
印象主義(Impressionism)の対義語と考えればちょっとわかりやすいですかね。





印象主義は「外部から受けた印象をそのまま表現する」というもの。
一方その反対にあたる表現主義は
「外部に依存せず、自己の内面をそのまま表現する」というものです。
「何かを写したり参考にするのではなく、
 純粋に自分の頭の中に浮かんだ形をそのまま表現する」
これが表現主義です。
表現主義の全体的な特徴として
コンクリートを使った粘土細工のようなデザインや
ガラスを用いた幾何学的な結晶風のデザインを持ったものが多いです。

「アインシュタイン塔」のエーリッヒ・メンデルゾーンや
「ゲーテアヌム」のルドルフ・シュタイナー
そしてのち日本に渡り、桂離宮を高く評価したことで有名な
ブルーノ・タウトなどが、ドイツ表現主義の代表的な建築家です。
表現主義は戦前の日本にも影響を与え
若き日の山田守や堀口捨己も表現主義的な作品を残しています。





このマンションも、まさに粘土をこねたようなデザイン。
これは側面の出窓のデザインですが
壁がペロッとめくれて、その隙間から窓がのぞいているみたいです。
遊び心あふれる自由気ままな造形感覚です。

表現主義は1930年代には早くも完全に過去のものとなってしまったのですが
・・・だとするとこのマンションは一体いつ建てられたんだ!?
と思ってしばらく探してみたら、ありました。





これこれ、「定礎」のプレートです。
これがあると年代特定などの際に結構助かります。

見てみると「昭和五拾弐年六月吉日」(=1977年)と書いてあります。
ちなみに定礎のプレートは工事中や竣工時につけるもので
書かれている年は着工年だったり、竣工年だったり
土台が完成した年だったりとバラバラなんだそうです。
その後調べてみると、このマンションの竣工は1979年・・・意外にも新しい!!
新宿駅を挟んで反対側の超高層ビル街が姿を現わした後に
建てられたことがわかります。

改めて考えてみると、この時代には機能主義の単調さ、画一性への反発から
様々な形で機能主義モダニズムからの脱却が目指されていました。
その中には建築家 白井晟一の作品のように
表現主義的傾向への回帰もありました。
このマンションもそういう流れの中で出てきた
「表現主義回帰」の建築なのかもしれません。





・・・にしてもこのボロイ味わい深い風合い・・・
上の方とか塗装が剥落してて絶妙な経年変化が出てて
見た目以上に老けてる貫禄のあるマンションです。
これで築30年弱・・・こんなもんなのかなぁ・・・
表現主義的なデザインと相まって、年齢不詳な感じがします。

余談ですが、階段室のてっぺんについてる丸い貯水槽が
表現主義の代表作とされる「アインシュタイン塔」をなんとなく連想させます。
「アインシュタイン塔」で検索すれば、画像が見つかると思います。





うまい具合に隣が空き地だったので
側面の写真も撮ることができました。
ちょうど「巨大な怪物の背中」といった感じ・・・
ポチポチ並んでる換気扇が恐竜の皮膚の突起みたいです。
ほら、真ん中の窓の列が背骨で・・・





このマンションについてwebで調べてみたんですけど
建築作品としては全く認知されていないみたいですね・・・
でも、この一度見たら忘れられない姿といい
新宿駅前という人目につきやすい土地柄といい
結構気になっている人、好きな人もいるんじゃないかなぁ・・・
とりあえず、今後ちょっと注目の建築だと思います。



<おまけ>



この看板・・・上の方の写真で気になってた人も多いと思います。
昔ある「一流情報バラエティー番組」にも頻繁に登場していた
かの「ブランド王」の質屋の看板です。
ちなみにブランド王のお店があるのはこの隣のビルです。
それにしてもこの髪型・・・妙に下の建物とマッチしてる・・・
リーゼントってのはまさに表現主義的な髪型だと言えますね〜



2008.7.19

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