吉祥寺ハイム





謎の巨大マンション「吉祥寺ハイム」・・・
この十字架は一体何を意味するのか・・・
こんな謎めいた、ワクワクするような建築久しぶりかも・・・





さてこちら、マンションの西側からの眺め
こちら側もこちら側でまたまったく異なるデザインになっていて
やっぱり同じひとつの建物とは思えない・・・
玄関はこの西側に付いています。
そして上の写真にも・・・入口の横に十字架があります。
その十字架の下には・・・





「カトリック吉祥寺教会」の文字が・・・
何とこの建物、マンションと教会がひとつとなった
複合型の施設
だったのです。
屋上の巨大十字架は教会であることを示すものだったのです。
マンションと教会がひとつになった建物とは・・・
そんなものがあるんですね・・・日本に・・・ビックリです。





しかし、この建物全体がキリスト教の施設なのかというと
そういうわけでもないようです。
「教会」と書かれた入口とは別に、住民の方用の
「吉祥寺ハイム」と書かれた入口もあります。
住民の方がみんなクリスチャンというわけでもないみたいで
「吉祥寺ハイム」の方はごく一般的な分譲マンションです。
不思議な共存というか・・・





マンションの敷地内には独立した礼拝堂もあります。
前のページの最後の写真の教会がそれです。こちらは正面。
木々に囲まれた、静けさ漂うかわいらしい建築です。
それだけに、巨大マンションとのコントラストがまた強烈・・・
でもこのふたつの建物、ともに歴史を歩んできた存在なのです。





このかわいらしい礼拝堂が完成したのは1954年(昭和29年)のこと。
それからしばらくはこの礼拝堂でこと足りていたようですが
吉祥寺の発展に伴い、段々と手狭になってきました。
そこで教会は敷地内に、新しい施設の建設を決めました。
当初は信徒会館や司祭館を建てる気だったようですが
どういう経緯があってか、それと一緒に巨大マンションも建ててしまった(?)のです。

巨大マンション建設の裏にどういう事情があったのか
部外者だし、クリスチャンでもない管理人にはわかりませんが
人々に住む場所を、という隣人愛的な発想からなのか
それともマンションを分譲して教会の運営資金に当てたかったのか・・・

ともあれ、こうして1971年(昭和46年)、小さな礼拝堂の隣に
教会施設と分譲マンションが一体となった
世にも不思議な巨大施設が姿を現したのです。





何ともユニークな機能を持ったこの建物ですが
同様にデザインも非常にユニークです。
地上11階建てというこの巨大施設
1階から3階までが信徒会館、司祭館、事務所などの機能を持った教会施設
4階から11階までが分譲マンションになっています。
外観も3階までがレンガ調のタイル貼り
4階以上がベージュの壁というカラーリングになっています。
外観にもちゃんと建物の機能が反映されています。





マンションは教会の敷地に合わせて
細長い、かなり扁平な三角形の平面になっています。
そのため、見る角度によってはこんなにホッソリ・・・
吉祥寺のマンション群の端に、文字通り「壁」のように立っているのです。
ちなみにこのあたり、良質なヴィンテージ・マンションが立ち並んでいて
なかなかナイスな感じです。こういうところに住みたい・・・
その中でもこいつは一際異彩を放つ存在です。



   

そしてこちら、南側もやはり個性的なデザイン!!
レンガ風の下層部の上に前のめりに飛び出しているのはベランダです。
右の写真、曲がっているように見えますが、垂直方向にはまっすぐです。
いちばん右の写真のような感じで補助線を引いてみると
ちゃんとベランダがチェック模様に並んでいることがわかります。
このベランダ、横から見るとわかりますが、斜めに飛び出しています。
おそらくは下の階の採光を考慮して
ちゃんと光が入るように斜めになっているのでしょう。
こういうところは妙に機能主義的です。
下を通ると、平衡感覚が揺らぐような気分になります・・・





最後にこちら、東側のデザインです。
建築的に一番目を見張るのはここですかね・・・
このデザイン、各部屋がまるで
ひとつの独立したユニットになっているように見えませんか?
建築史上の意義に対して、このホームページでは意外と登場頻度が多い(?)
「メタボリズム(新陳代謝)建築」を暗示させるようなデザインです。

このマンションの完成は1971年ですから、
時代的にもまさに1970年代初頭、メタボリズムまっただ中の時代です。
特にこのマンションは、あの「軍艦マンション」と同じような
ユニット型のメタボリズム建築に似ています。
実際にユニット工法で建設されたのか、単にデザインだけなのか
そこら辺はちょっとわかりませんが・・・
少なくとも、相当程度にメタボリズムを意識していることは明らかです。



   

・・・という感じで、恐ろしいことにこの三角形のマンションは
3つの壁面すべてまったく異なるデザインになっているのです。
改めてですが、上の写真、どれも同じ建物です。
構造表現主義あり、機能主義あり、メタボリズムあり・・・
見た目もコンセプトもそれぞれ異なりますが
実は3つとも根っこは同じ「モダニズム」の派生形です。
何というバカげた、何という意欲的で前衛的な、何というカッコいい・・・

1970年代はまだまだモダニズムが勢いを失っていなかった時代。
とはいえ、モダニズムの単調なデザインへの反発は当時すでに相当拡大していました。
そんな状況の中でこのマンション、モダニズムの表現手法を極限まで駆使して
こんなにも異様なデザインを作り上げたのです。
どのデザインも全く違うものに見えますが、
どれも純然たるモダニズム(近代主義)の理念に基づいたものです。
「合理性」というものを追求してたどり着いたそれぞれの回答です。

   より無駄のないデザインに ・・・ 構造表現主義
   より機能的なデザインに ・・・ 機能主義
   より時間軸を見据えた建築を ・・・ メタボリズム

これ設計した人はホント、モダニズムの鬼ですね・・・
(設計者の名前がわからなかったのが残念・・・
 というのもこの建物、やはり建築作品としてはほとんど認知されていないよう・・・)
モダニズムの表現手法だけを実に巧みに駆使して
最高にぶっ飛んだユニークな作品を作り上げたわけですから。
「モダニズムは無味乾燥? はぁ? どこが?」と言わんばかりのデザインです。
というかこれはもはや、古典的なモダニズムとは別の次元の存在ですね。
「超越的モダニズム」とでもいいますか・・・
モダニズムのありとあらゆる表現のオンパレードのよう・・・
しかも教会とマンションが一体となっているとは・・・
これもモダニズムの「合理主義」の発想からなのでしょうか・・・





メタボリズムの軍艦マンションに対して言うなら
こちらは「モダニズムのノアの方舟」といった感じでしょうか。
ノア翁はあらゆる生物のつがいを方舟に乗せましたが
このマンションはモダニズムのあらゆる表現手法を満載しているわけです。
そしてその後、モダニズムは・・・
1980年代にはポスト・モダンの大洪水でことごとく没してしまうわけです。
モダニズムに新天地はあるのか・・・
不思議なモダニズムのノアの方舟は、今日も吉祥寺を見守り続けています。



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2008.12.2

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