九段会館





さて、この九段会館は現在は多目的な文化施設として使われていますが
できた当時は「軍人会館」という名前で旧日本軍が使用していました。

「軍人会館」が完成したのは1934年のこと
デザインはコンペによって、建築家 川本良一の設計案が選ばれました。
川本良一は他にも、一連の「同潤会アパート」の設計も手掛けています。
当時、コンペの審査員を務めていたのは年配の大御所建築家たち
様式主義全盛時代に活躍した彼らは、当然様式主義のデザインを優遇し
若い建築家たちのモダニズム案はことごとく退けられていきました。
当時のコンペの中には、設計条件として
「日本趣味(当時の帝冠様式の呼び名)を基調とすること」
と明記されることもありました。
こうして、1930年代には日本各地、さらに当時の日本の植民地に
数多くの帝冠様式の建築が建てられました。
今でも中国や韓国、台湾などに残っている帝冠様式の建築もあります。





当時の軍人会館の用途は
「予備役兵、後備役兵の訓練、宿泊のための施設」
つまり、現役でない軍人のためのホテルなどとして使われていました。
今でも九段会館の中にはホテルも入っています。
また、竣工から2年後の1936年に発生した「2.26事件」のときには
軍人会館は戒厳司令部としても使われました。

戦後、軍人会館はGHQに接収され
1957年まで連合軍の宿舎として使われていました。
現在の「九段会館」という名前になったのは1953年のことです。

そして現在、九段会館は多目的施設として使われています。
館内にはホテルのほか、宴会場、結婚式場、ホール、レストランを備え
さらに屋上にはビアガーデンもあります。
面白いのは、中の施設まで今でも和洋折衷であるところ。
結婚式場はチャペルと神殿の両方を備え
和食のレストランもあればフレンチのレストランもあります。
外が和洋折衷なら中も和洋折衷・・・



内部は戦後、大部分が改修されましたが
今でも当時の面影を残す部分もあります。
それが、映画の試写会などで使われる大ホールです。

普段なかなか目にすることのできない部分ですが
幸運なことに、ある映画の試写会に当たった時に
うまい具合に会場がこの九段会館の大ホールで
「こんなチャンス二度とない!!」と思って
許可をもらって映画の上映の前に中の写真を撮らせていただきました。

それでは、ごらんください。
貴重な九段会館大ホールの写真です。





いかつい外観からは想像もできない
曲線的な造形の大ホール・・・
何より外からは想像もできないほど広い!! ムチャクチャ広い!!
というより天井が高い!!
客席は約1100席、何と3階建てになっています。



   

下から見上げるとホントに広いです。
緩やかな曲線を描く天井にはステンドグラスがはめ込まれています。
それでもやっぱりやや日本趣味が入ってます。
舞台側の天井は格子天井風のデザインです。





こちらは2階客席の一番前についている照明のデザイン
やっぱり何だか外観と共通する
和風なようで和風でないような凝ったデザインになっています。
これほど大規模なホールにもかかわらず
意外なほどにオリジナルが保たれています。





そしてこれも実に興味深いデザイン
この建物がかつて日本軍の施設であったことを物語っています。
これは1階客席の壁のデザインですが
ひし形の真ん中に「星」と「いかり」の浮き彫りがあります。
「星」は陸軍、「いかり」は海軍のシンボルマークなのです。
今では平和に映画が上映されたりしているこのホールですが
昔は軍人さんが物騒な演説なんかをやってたんでしょうね〜





それから、これも見つけたとき思わずニヤリとしました。
座席の番号が・・・ひらがな・・・
しかも前の席から数えてみたら・・・
50音じゃなくて「いろはにほへと」になってる・・・
ちなみにこれは「た」なので、前から16番目の列です。
やっぱり、アルファベットは当時「敵性語」だったわけですからね・・・

ちなみに映画の方は・・・微妙だった・・・
ハリウッドのアクションものだったんですが
(何の映画とは言いませんがね)
ストーリーが薄いし、おまけに中途半端な終わり方・・・
映画より九段会館の方が確実に見どころ満載でした。



   

映画を見終え、何とも微妙な気分で九段会館を出ます。
夜にはこんな感じでライトアップされてて、なかなかきれいです。
それから、なぜか九段会館はいつ行っても
ちょっと季節はずれなかわいらしいデコレーションが・・・
なぜか一年を通してクリスマスツリーが見られます。(撮影:2008年3月
いかつい建物に、かわいらしいクリスマスツリー
しかも、季節は春・・・
九段会館はミスマッチの限界に挑戦しているんでしょうか・・・
(だとしたら、かなりいい線いってると思います)





軍国主義の時代に生まれた
伝統と近代化の間のミノタウロス的建築
九段会館でした。



九段会館 1ページ目に戻る

2008.8.3

一覧に戻る
地域別一覧に戻る
時代別一覧に戻る

inserted by FC2 system