ポーラ美術館

第56回 日本建築学会賞
第16回 村野藤吾賞

所在地 神奈川県箱根町仙石原
竣工 2002年(平成14年)
設計 安田幸一
日建設計



2008年8月に行ってまいりました美研合宿@箱根
その中でも個人的に最大の見所だと気合い入れて見てきました。
箱根なんてあんまり気軽に行ける場所じゃないからね・・・





ポーラ美術館



箱根にはやたら多くの美術館がありますが
これはその中でも新参者、2002年に開館しました。
「ポーラ」はあの化粧品の「ポーラ」です。
その会長が長らくコレクションしてきたものを展示しているそうです。

バス停から伸びている歩道の先に玄関があります。
美術館は箱根の深い森の中に立地しています。
木が生い茂っていて何だか全体が見えにくいですが
それこそがこの美術館の最大の特徴です。
そしてこの特徴のおかげで
国立公園の中に美術館を建てることが可能になったのです。





木々の隙間からチラッと見える博物館本体です。
見えるポイントを探してしばらく周囲をうろつき回っていたのですが・・・
写真で分かるように、ほとんど高さのない建物です。
地上に出ている部分は高さわずか8メートルしかありません。
しかも一番高いのは、本体から橋のように伸びている入口部分で
建物のほとんどは地上0メートル以下にあります。
そう、この美術館は「地下美術館」なのです。





地下にそのまま貴重な収蔵品を置いちゃって大丈夫なのか!?
と思うかもしれませんが、この美術館の地下はただの地下ではありません。
上の写真のように、建物本体は地面とは分離して立っています。
この美術館は、直径75メートルものすり鉢状の空間の中に
地下3階まである十字型の建物がすっぽりと納まる形になっています。
美術館にはちゃんと免震装置が施されていて
中のダリやらカンディンスキーやらピカソやらを守っているわけです。
この「建物のほとんどを地下に埋める」という発想が
基準の厳しい国立公園内に大型の美術館をつくることを可能にしたのです。





さて、いよいよ美術館のディテールです。
こちらは入口、この美術館で一番高い部分であり
ほぼ唯一地上に出ている部分でもあります。
これでもかとガラスを駆使した透明感のある建築です。
この「ガラス」が「地下美術館」と密接に関係しているのです・・・
ちなみに訪れた時は「シャガール展」やってましたね。





入口からエスカレーターで早速地下に入っていきます。
何か一点透視の説明に使えそうなデザインです。
ガラスの外には箱根の深い森が見えます。
左のコンクリートの水平なプレートが視覚的に「地下」を実感させてくれます。
エスカレーターで下りていくと同時に、水の中に潜るように
視線の下にあった地面が、ちょうど真ん中にきて、今度は上に・・・
という感じで地下に入っていく演出がされています。
(わかりにくっ・・・でもこれはぜひ体験してほしい)
それからガラスにご注目、ガラスをガラスで支えています・・・鬼ディテールです・・・





こちらが地下1階、展示室とミュージアムショップがあります。
ここで建築家を紹介・・・
意匠デザインは東大教授の安田幸一を中心とする日建設計のグループ
そのほかにもチーフ・アーキテクトとしてあのパレスサイドビルで知られる
巨匠・林昌二も関わっています。ワ〜オ!!
連綿と続く日建設計の「鬼ディテール」を受け継ぐ建築です。



   

建物全体はほぼ正十字型になっていて
中心に最下層まで貫通する吹き抜けがあります。
ガラスとコンクリートを駆使した、静かな建築に仕上がっています。
何だか安藤忠雄先生の作風にも似てますな〜
ダイナミックな造形ですが、仕上げが細やかなので
あまり荒々しい印象は受けません。
あくまで美術館として、作品の引き立て役に回っています。





さてこちら地下3階、美術館で一番深いところです。
ふ〜んとか思っている方、ここであらためて思い出してください。
これは「地下美術館」です。しかもここは地下3階です。
何なんだこの解放感はっ!!
しかも普通に明るいっ!! 地下3階なのにっ!!

これぞポーラ美術館のすさまじいところです。





どこまで深く潜っても普通に明るい
この建築における「地下」の概念をぶっ飛ばすような内部の秘密は
巨大な吹き抜けと、徹底的にガラスを駆使したトップライトです。
上の方でちょっと書きましたが、一番高い入口部分は
骨組みにまでガラスを使うなど徹底してガラスにこだわっています。
この全面ガラスの天井が太陽光を最大限に取り入れ
巨大な吹き抜けで地下深くまで太陽光を通しているのです。
地下3階の写真(ふたつ上)をもう一度見てみてください。
天井にご注目。壁との隙間の間接照明以外、照明器具が一切ありません。
本当に自然採光だけで、この明るさを実現しているのです。





太陽光は時間とともに移り変わっていき
それと一緒に美術館の中の光も表情を変えていきます。
この美術館の建物を楽しむなら、一日中ぼーっとしてるだけでもいいかもしれません。
時間とともに移り変わる光の表情を楽しむとかね・・・
それにしてもコンクリートって美しい・・・



   

天井から注ぎ込む太陽光が
光と影の絶妙な表情を浮かびあがらせます。
派手さとかそういうものは全くないけど
静かな美しさを漂わせています・・・こういうの大好きです。
モダニストだからです。





という感じで建築としても見どころ満点のポーラ美術館ですが
もちろん美術館としての実力もなかなかのものです。
収蔵品はルノワールやマネなど印象派から
ダリ、ピカソ、カンディンスキーなどの現代絵画
そのほかにも横山大観や東山魁夷などの日本画
そして陶磁器や工芸品まで幅広いコレクションを蔵しています。
美研のメンバーの評判もなかなかのものでした。
ですが・・・田中は建築の方に夢中になってしまったために
常設展を丸ごと見逃すという大惨事になってしまいました・・・
何かみんなから「すごいよかった」という評判を聞くたびに
じんわりと後悔の念が・・・
でも建物見れたからいいんだ!!(泣)
ちなみにシャガール展だけは何とか見れましたよ。
でもみんな「シャガール展より常設展の方がよかった」
なんて言うから困ったもので・・・





今度また訪れる機会があったら・・・
その時はちゃんと、展示の方も見ます。きっと。

自然と一体になった地下美術館、ポーラ美術館でした。



2008.10.6

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