世田谷区民会館 公民館

所在地 東京都世田谷区世田谷
竣工 1959年(昭和34年)
設計 前川國男





この建物は「世田谷区役所シリーズ」のなかでも
かなり脇役的な存在ですが
前川國男の作風の変化を体現する存在と言えます。



   

この「公民館」は「公会堂」と同様
「世田谷区役所シリーズ」第一期の作品で
第二期の作品である「第一庁舎」と「公会堂」の間をつなぐように立っています。
インパクトのある左右の建物に押されてやや影が薄い存在ですが
結構「深い」作品です。





公民館は2階建てになっています。
公会堂と第一庁舎の間の1階部分は
このように壁のない柱だけの空間「ピロティー」になっていて
人でも自転車でも自由に通行できるようになっています。
「交通を妨げない建築」というピロティーの発想は
ル・コルビュジエの「近代建築五原則」の中にも盛り込まれています。
ちなみに2階部分には集会室や結婚式場があります。





このピロティーは独特の静けさがあって
なかなか気持ちのいい空間になってます。
昔は特撮モノの撮影にも使われていたそうです。





そして造形上の大きな特徴が
いちばん上についている大きな「庇(ひさし)」です。
旧日本相互銀行本店国際文化会館など
それまでの前川作品は「箱形」のものが多かったのですが
このころを境にこのような大きな庇を備えた作品が多くなります。
日本家屋の「縁側」にも通じるこの庇は
中期の前川作品のトレードマークとなっていきます。

内部空間だけで完結した建物ではなく
その建物の外部にも広がり
そして隣の建物ともつながり
有機的につながった都市空間を生み出す。
そしてその都市空間の中を
人々は自由に行き来する・・・

この「世田谷区役所シリーズ」は、前川先生にとって
「都市的空間の実験」の舞台でもありました。
ひとつの広場を囲むように並ぶ建物たちは
ひとつの小さな「都市」となっているのです。





ひとつの大きな建物に多くの機能を詰め込めば
それはそれで移動の手間が省けて便利でしょう。
でも、広場を中心に建物を「回遊する」という行動は
人間の目に様々な変化のある風景を展開させてくれます。
外に出れば、日光や木々などを目にすることができ
風も感じられ、季節を感じることができる。
それが「精神的に豊かな都市」につながる・・・
そういう発想がこの一連の「世田谷区役所シリーズ」にはあったんじゃないかと
管理人は考えています。

そういう意味で、この「公民館」は
世田谷シリーズの「肝」となる建物だと思います。
眩しい日光を適度にさえぎってくれるピロティーと庇は
人々が外に出て回遊するのを促してくれます。
そして、ふたつの建物をつなぐようにすることで
視覚的に「有機的につながった都市空間」を表現しています。





広場には区役所の職員さん達のほかにも
親子連れの姿もチラホラとありました。
自動車が入ってこない広場は
子供を安心して遊ばせることができます。
でも、遊具とか何にもないんですよね・・・
何か置けばいいのに・・・
もっと子供が遊びやすい広場になれば
区民も集まって、より開かれた区役所になれそうです。
それこそ、前川先生の理想とするところだったんじゃないかなぁ・・・







<前川國男「世田谷区役所」>

世田谷区民会館 公会堂
世田谷区役所 第一庁舎
世田谷区役所 第二庁舎

2008.8.29

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