新宿三井ビル

第27回 日本建築学会賞

所在地 東京都新宿区西新宿
竣工 1974年(昭和49年)
設計 池田武邦
日本設計



新宿には多くの超高層ビルがありますが
これは本当に傑作の名に恥じない存在だと思います。
僕が一番好きな超高層ビルです。





新宿三井ビル



1974年に完成したこのビル
新宿の超高層ビルの中でも
古参に位置付けられるもののひとつです。
高さは225m、地上55階建てです。



   

とにかくシンプルなデザインのこのビル
全体の形はほぼ完全な直方体で
壁面には上から下まで、ガラス窓と黒い金属板が
方眼紙のマス目のように並んでいます。
どこまでもシンプルで、抽象的なデザインです。

側面には巨大なX字型の筋交いが露出していて
これがほぼ唯一のアクセントになっています。
つやつやとした表情のない金属的な質感が
このビルの抽象性を一層高めています。



   

こちらはエントランス部分の写真
エントランスはビルの顔ですから
凝ったデザインだったりすることが多いのですが
このビルはここまでシンプルなデザインです。
とにかく徹底的なシンプルさです。

じゃあこのビルはただシンプルなだけの
そっけなくてつまらないビルなのかというと
そういうことは全然ありません。
そこに、このビルの「深み」があります。





近付いてみると感じますが
このビルは、独特な雰囲気を発しています。
最小限にまで切り詰められたそのデザインには
張りつめた緊張感まで感じられます。
これ以上削れない限界まで削られた
奇跡的なバランスの上に成り立っているかのようです。
そこには強烈な「無言の精神性」が漂っています。

視界の開けたビルの前の広場
その奥に、異様なまでに抽象的な
一本の「直方体」が天高くそびえています。
その存在感は、「恐怖」に近いものさえあります。





映画『2001年宇宙の旅』の中で
人類は謎の生命体が月に残した
ひとつの黒い直方体「モノリス」と対峙します。
はるか遠い昔にすれ違った想像もつかない生命体が
人類に残していった謎の物体・・・
雑然とした観測装置の中に
異様な静寂をたたえてそびえる「モノリス」
その不気味なまでの存在感、そして「美しさ」・・・
それに通じるものが、このビルにはあります。
このビルの美しさは「心地よさ」というよりは
「恐ろしさ」に近い感じがします。





奇跡的なバランス・肉体美
そして高い精神性を宿したギリシャ・ローマの彫刻が
何千年も未来の私たちを、今でも感動させるように
高い精神性を持ったモダニズム建築は
いつまでも(僕含め一部の)人々の心を動かします。
このビル、完成から30年以上たっているにもかかわらず
全く古さを感じさせません。
それがまた、なんとも「不気味」です。

このビルを見に行くたびに
僕は一種の畏怖の念を感じ
建築の奥深さをあらためて強く感じます。





究極の抽象美・沈黙の名作
そして、真の「無言の箱」
新宿三井ビルでした。



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2008.4.20

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