旧交通博物館

所在地 東京都千代田区神田須田町
竣工 1936年(昭和11年)
設計 土橋長俊
鉄道省東京改良事務所





男っていうのは、一生のうちに一度くらいは
「のりもの」が好きになる時期がありますよね・・・
僕にもありました・・・懐かしい・・・

確か幼稚園くらいの時だったと思います。
家族でここを訪れて、展示されてた新幹線の前で
記念写真を撮ったんだなぁ・・・
あのころの記憶はもうほとんどありませんが
まさか、またここを訪れるようになるとは・・・
しかも、「のりもの好き」の男の子から
「建築狂」の大学生になって・・・





旧交通博物館



かつて日本中の「のりもの好き」の子供たちをときめかせてくれた
多くの人に愛された博物館・・・
新しく大宮にできた「鉄道博物館」に役割をバトンタッチしてから
今は人知れず、ひっそりと余生を過ごしています。





2006年に閉館してから展示品はすべて移され
屋外展示品なども撤去されています。
今は短いレールだけが残っていますが
かつては右側に0系新幹線
左側にD-51蒸気機関車の「頭」が設置されていました。
かつてここで何万人もの子供たちが、家族と一緒に
笑顔で記念撮影をしていたんですね・・・
そして、僕もその一人だったんですよね・・・何か泣きそう・・・





昔は家族連れの歓声でにぎわっていたエントランスも
今はひっそりと静まり返っています。
時折通りがかった人が看板をちらっと見て行くだけ・・・
ドアの横の看板には「ありがとうございました」の文字・・・
あぁ・・・「ありがとう」を言うのはこっちの方ですよ・・・





ノスタルジーに浸るのはこれぐらいにして・・・
あれから十ウン年経って建築狂になってしまった今
改めて「建築」として交通博物館を見てみたいと思います。
その前にまず交通博物館の歴史をちょっと紹介。

初代「鉄道博物館」は1921年、東京駅構内にオープンしました。
結構歴史のある博物館なんですね。
その後1923年の関東大震災のあと、同じ場所に再建されましたが
だんだん収蔵品が増えて手狭になり
1936年に、現在の場所に「交通博物館」として移転してきました。
かつてここには中央線の「万世橋駅」という駅があって
交通博物館は万世橋駅に付属する形でオープンしました。
その後、万世橋駅は利用者の減少により1943年に事実上廃止となりました。
ちなみに、今でも旧万世橋駅のホームが残っています。
御茶ノ水駅と神田駅の間、旧交通博物館が見えてきたら線路と線路の間にご注目。





さてこの建物、建てられたのは1936年
ここに移転してきた当時の建物のままなんですね。
装飾のないサッパリとした外観、白い壁
そして特徴的なカーテンウォールの階段室・・・
1920年代の震災復興建築の流れをくむ
非常に貴重な戦前のモダニズム建築です。

設計した土橋長俊は鉄道省東京改良事務所に所属していた建築技師で
なんとあのル・コルビュジエの事務所で働いていた経験を持つそう。
当時世界最先端の建築動向であった機能主義モダニズムを
いち早く日本に紹介し、実作も実現しました。
この建物、1936年当時世界でも最先端のデザインを持った建物だったのです。





この無装飾で簡素なデザインは
世界のどこでも共通に通用することを目指していたために
「インターナショナル・スタイル」と呼ばれています。
1923年の関東大震災のあと、東京で学校などの公共施設を中心に
一連の「震災復興建築」と呼ばれる建築群が建てられますが
この震災復興建築では震災による資材不足や早急な復興の必要から
建設費が安上がりで工事期間も短い
インターナショナル・スタイルのデザインが選ばれました。
この旧交通博物館も、震災復興建築の流れをくむ建築なのでしょう。



   

この特徴的な階段室
西側(写真左)と東側(写真右)の2か所にあります。
1930年代当時世界的に流行していた「流線形」のデザイン感覚も取り入れながら
カーテンウォールを用いたモダニズムの表現にまとめています。
戦前にこんなモダンなデザインが日本にあったとは・・・
ちなみにこれと非常によく似たガラス張りの階段室が
震災復興建築の代表格「四谷第五小学校」にもあります。



   

それからこの外付け階段
なかなかアクロバティックでカッコいいデザインになってます。
コンクリートとか鉄骨といった
当時の新素材の強さを誇示するかのようなデザインです。





戦前のモダニズム建築として建築史的にも文化財として貴重な上に
何より多くの子供たちに夢を与えてきたこの建物
今は空き家の状態でこの先どうなるかわかりませんが
何とかきれいにして有効活用してほしい・・・



2008.7.20

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