中銀カプセルタワービル

日本におけるDOCOMOMO拡大125選

所在地 東京都中央区銀座
竣工 1972年(昭和47年)
設計 黒川紀章



2007年に亡くなった、建築家 黒川紀章先生
戦後の日本建築界をリードしてきた巨匠のひとりでした。
今回は、クロカワ先生追悼ということで
故人の代表作の一つを紹介します。





中銀カプセルタワービル



新橋駅から歩いてすこし
汐留の超高層ビル群の端に
こんな奇妙な建物が立っています。

完成したのは1972年
クロカワ先生38歳の時の作品です。
そして、この作品は
クロカワ先生の出世作でもあります。





「カプセルタワー」という名の通り
四角いカプセルがたくさん集まってできています。
その数140個・・・
上に黒い構造物が2つ突き出ていますが
この下に螺旋階段とエレベーターがあります。
この2本の「シャフト(幹)」の周りに
カプセルがうじゃうじゃと群がっているわけです。
なんだかグロテスク・・・





入口の横にカプセルがひとつ置いてあります。
モデルルームなわけです。
大きさは約2.3×2.1×3.8m
正面に丸い窓がひとつだけ。
なんだかSF映画に出てくる
宇宙船の脱出ポッドのようです。
ドラム式の洗濯機にも見えますね・・・





中はこんな感じになってます。
中までまるで宇宙船・・・
奥に入口の緑色のドアがあります。
その左側の丸っこいドアはトイレ
右側の壁にはアンティークな香り(におい?)漂う
ダイヤル式のテレビやら電話やらが埋め込まれています。
写真では分かりにくいのですが
手前にはベッドが備えつけられています。



実はこの建物はマンションなのです。
ここに人が住むのです。
しかも、クロカワ先生曰く
これは「21世紀の住宅」なのだそうです。
一体どういうことなのでしょうか・・・







モデルルームの窓に
こんな言葉が書かれています。



  カプセルとは
  「ホモ・モーベンス」のための
  住いである。

                    黒川紀章



「ホモ・モーベンス」
すなわち「移動するヒト」です。
ホイジンガという人は、人間の規定として
「ホモ・ルーデンス(遊ぶヒト)」
という概念を考えましたが
クロカワ先生は現代人の規定として
「移動するヒト」というのを考えました。

現代人は一か所にとどまらず
常に移動し、住まいを変える・・・
生まれてから死ぬまで、同じ土地に住むという人は
現代では少なくなったのではないでしょうか。
大学進学のために地元から出てきたあなたも
「ホモ・モーベンス」でしょう。
一日のうちでも、学校に行ったり、職場に行ったりと
現代人の生活は様々な移動でいっぱいです。
このマンションは、そんな現代人の生活様式を反映した
長期滞在を目的としない住宅なのです。

短期滞在が基本なのですから
居住性はあまり顧みられていません。
聞くところによると
かなり住みにくい物件のようです・・・
短期滞在なのですから
最低限の設備があればそれでいいのです。
カプセルホテルに宿泊する感覚で
マンションに住む、ということです。
(ちなみに、日本初のカプセルホテルを設計したのも
クロカワ先生だったりします)





住む人も次々に入れ替わっていきますが
この建物最大の特徴は
カプセル自体が入れ替え可能だということです。
それぞれのカプセルは、たった2本の高張力ボルトで
「幹」に固定されていて
必要に応じてカプセルを丸ごと交換したり
配置を変えることができます。(理論上は・・・)

人間の細胞が日々新しいものに生まれ変わっていくように
この建物はカプセルが「新陳代謝」するのです。
「完成したらそれで終わり」
という建築の概念を根本から覆す
画期的・革命的な建築と評されています。
このような建築は
「メタボリズム(新陳代謝)建築」
と呼ばれています。
(肥満気味なわけではありません・・・)
新陳代謝をする、まさに「生きた建築」です。



と、このように夢いっぱいの(?)
斬新で奇抜なアイデアの詰まったこのマンションですが
今、解体の危機に瀕しています。
というより、実はもう解体が決定しています。
新陳代謝して生き返るはずなのに
どうして解体されてしまうのでしょう・・・





理由はいろいろあります。
居住性が極めて悪いこと。
アスベストの問題。
そして、カプセルがすべて同じ時期に作られたものなので
すべてが同時進行的に老朽化していて
「新陳代謝」だけではどうにもならないこと。
(過去30年余りの間、実際にはカプセルはひとつも交換されませんでした)
「細胞の死」から「個体の死」へ・・・
まさに生き物です。

クロカワ先生がこの作品の後
似たようなカプセルのマンションを
ひとつも建てなかったことからも
理論だけではうまくいかなかったことが察せられます。
実際に建ててみて初めてわかる問題もあります。
また、一人暮らしを想定したさびしいカプセルは
人間疎外を助長する、との批判もありました。
なかなか難しいものですね・・・





一部の建築ファンの間では
「建築の革命の記念碑」として
この建物を世界遺産に登録しようという
何とも雄大な計画もありましたが
結局それもかないませんでした。
「革命」は頓挫してしまったのですから・・・

でも、メタボリズムの思想は
現代のリサイクルにも通じる理念だとして
再評価もなされています。
クロカワ先生も、自然との共生を目指す
「共生の思想」というのを訴えていました。
(ちなみに、クロカワ先生が組織した政党の名前も「共生新党」でした)



建築は人間が使うものですから
人間抜きに建築は考えられません。
建築家が「人間」をどう見ているのか
「人間」とは何だと考えているのか
そういう建築家の哲学が建築には反映されています。
それぞれの建築家がどのような哲学を持っていたのか
建築からその哲学を読み解くのは
建築鑑賞の醍醐味のひとつだと思っています。



建築に「時間軸」の概念を持ち込んだ
革命的な失敗作
中銀カプセルタワービルでした。







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2008.4.20

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